シンポジウム”Philology, Philosophy and the History of Buddhism: 60 Years of Austrian-Japanese Cooperation”

2019年11月18日・19日の両日、ウィーン大学にて標記のシンポジウムが開催され、当研究所から苫米地主席研究員が出席しました。

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2019年はオーストリアと日本が国交を樹立して150年の節目にあたり、関連する各種の催しが行われています。そのなかで、仏教伝道協会の支援のもと、ウィーン大学南アジア・チベット・仏教学研究所(ISTB)オーストリア科学アカデミーアジア文化思想史研究所(IKGA)の共催で開かれた本シンポジウムは、オーストリアと日本の、古典インド学・チベット学・仏教学分野における60年にわたる交流の歴史を振り返りつつ、最新の研究成果やプロジェクトについての情報交換をおこなう場として企画されました。

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日本におけるインド仏教認識論・論理学の研究は、1950年代末から1960年代にかけて、当時ウィーン大学のインド哲学教授であったErich Frauwallnerとの深い交流を持った、北川秀則(名古屋大学)・梶山雄一(京都大学)・服部正明(京都大学)らの先学によってその基礎が打ち立てられました。その後、Frauwallnerの跡を襲ったErnst Steinkellner教授のもとさらに発展した仏教認識論・論理学研究を軸とする学術交流の伝統は現在まで脈々と受け継がれており、日本から若手の研究者がウィーンに留学し学位を取得したり、ウィーンでポスドクとして研究キャリアを開始しその後帰国して指導的な立場につく例は枚挙にいとまがありません。さらには、オーストリア科学アカデミーで遂行されている新出サンスクリット文献の校訂刊行プロジェクトにも、日本の研究者が多数参画しています。また一方では、梶山・服部両教授の学統に連なる桂紹隆教授(広島大学・龍谷大学、現・仏教伝道協会理事長)のもとで学位を取得したBirgit Kellner博士がIKGA所長の要職につくなど、オーストリアと日本のインド学・仏教学は互いに密接な関係で結ばれています。

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今回のシンポジウムでも、かつてウィーンに学んだメンバーを中心に日本人研究者が多数招待され、ウィーンと連携して遂行されているプロジェクトなど、最新の研究動向についての発表・情報交換が行われました。また、11月19日午後は会場をIKGAに移し、今後の両国間コラボレーションについて活発な議論を行いました。

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オーストリアと日本のインド学・仏教学をつなぐ要となっているのは、今回のシンポジウムのテーマが端的に示すように、原典の厳密な文献学的研究に基礎を置く思想史の方法です。人文学の方法論が多様化し、ややもすれば「ファッショナブル」な方法論談義が目的であるかのような本末転倒した事態も屡々見られる昨今ですが、やはり両国のインド学・仏教学が前提として共有する着実な文献学の手法こそが人文学の王道であることを確認した2日間のシンポジウムとなりました。